プロジェクト研究 文部科学省助成

平成28-32年度
文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(S)

『新規測定法によるHOxサイクルの精密解析とオキシダント・エアロゾル研究の新展開』
Precise analysis of HOx cycle in the air by novel techniques
and new development of oxidants and aerosols chemical dynamics




光化学オキシダントやPM2.5の増加は我国の憂慮すべき最重要環境問題の1つである。オキシダントの主要成分であるオゾンは前駆物質の削減が進んでいるにもかかわらず大気濃度が減少しないことから、環境対策の指針を策定するための科学的な根拠が強く求められている。オゾン濃度を再現するための数値モデルでは実測値に対し過小評価する傾向があり、我々の知識が不十分であることが指摘されている。一方、揮発性有機化合物(VOC)から大気中で作り出され、PM2.5の主要構成物質でもある2次有機エアロゾル(SOA)についても、観測による濃度情報の把握および生成過程のモデル化の研究が精力的に進められているが、その生成・成長・老化の過程に不明な部分が多く、数値モデルで予測されるSOA量よりはるかに大量のSOAが多くの場所で観測されている。オキシダントおよびSOAの数値モデルによる過少評価は、今後の大気質予測や大気質改善のための制御戦略を構築する上で極めて重要な課題であり、早急に解決する必要がある。

大気中でのHOx(OH-HO2-RO2)サイクルはオゾンやSOA生成と密接に関連しており、その精密な動態把握がオキシダントおよびSOAの数値モデルの精密化には必須である。当研究室では10数年にわたり大気のOH反応性観測を先駆的に実施しており、その中で150種類にも及ぶ大気微量成分の分析を考慮しても30から50%にのぼる未知反応性物質が存在することを明らかにしてきた。そして、これらの未知反応生成分の同定および大気化学的役割の解明を進めてきた。
(『レーザー分光法による都市の大気質診断とオキシダント制御に関する研究』:基盤研究(S)H21-25年度、および『光化学オキシダント生成に関わる未計測VOCの探索』:環境研究総合推進費H25-27年度)
一方で、当研究室ではレーザー分光法によるHO2反応性測定装置を世界に先駆け開発し、大気におけるHO2の動態解明にも着手してきた(Miyazaki et al., Review of Scientific Instruments, 2013, 84, 076106.)。本手法を用いた予備的な観測を行ったところHO2に関しても予想をはるかに超えて多くの未知反応過程の存在が示唆された。


  当研究室では、これら未知反応性物質の存在がオキシダントおよびSOAの数値モデルの精密化の大きな妨げとなっていると考え、本プロジェクトでは上記の先行研究より判明してきた未知反応性物質の探索を進めるとともに、測定システムを発展させ個別の未知反応性物質の情報無しに実大気中でHOxサイクルの回転速度と反応収率を直接検証できるレーザー分光法を駆使した新規測定手法の確立を目標としている。 さらに本プロジェクトでは他の研究機関(大阪府立大学、名古屋大学、東京農工大学、国立環境研究所)との協力のもと、スモッグチャンバー実験や大気大規模集中観測を通じてHOxサイクルの直接検出、オゾン生成速度実測、オキシダント・エアロゾル濃度測定および成分分析の比較を行うことにより、HOxサイクルの動的解析・オキシダント生成過程検証・エアロゾル成長過程について定量的な議論が可能な統合的モデルの構築、オキシダントおよびSOAの過小評価の原因の解明、そして当研究室がこれまで指摘してきた未知反応性物質のオキシダントやエアロゾル生成への寄与の解明といった大気反応の未踏領域にチャレンジしていく。




個別研究項目

上記の研究テーマ達成のため3つのサブグループにより9項目の個別研究を行っている。

HOxラジカルサイクル検証グループ(京都大学)
1. HOx反応性計測装置の簡略化と深化
2. HOx収率測定手法の確立と未知反応性物質の探索
3. HOx生成能測定と大気酸化能評価
ガス状2次生成物検証グループ(大阪府立大学・東京農工大学)
4. 光酸化により生成した準揮発性物質の網羅的観測
5. オゾン生成速度の直接測定と生成理論の検証
6. オゾンと準揮発性物質生成の関係性解明
2次有機エアロゾルの動態検証グループ(国立環境研究所・名古屋大学)
7. HOx/O3/NO3反応によるエアロゾル生成および変質過程の解明
8. エアロゾルの生成・変質過程が光学特性や物理化学特性に及ぼす影響の解明
9. HOxサイクルの理解に基づくエアロゾル予測モデルの深化


*個別項目の詳細および研究成果は随時報告する。